相続財産の大半が「現在住んでいる不動産」である場合、残された配偶者はその不動産を相続することで住まいは確保できます。しかし、金銭による相続分は子どもに渡るため、生活費に困窮するケースが少なくありませんでした。
こうした課題を受けて、令和2年の相続法改正により「配偶者居住権」が創設されました。これは、配偶者が生涯にわたって自宅に住み続ける権利を得つつ、金銭的な相続分も確保できるようにする制度です。


具体例で見る「配偶者居住権」の効果とメリット

相続法の改正により新設された「配偶者居住権」は、残された配偶者の生活を守るために非常に強力な制度です。具体的なケースを通して、この制度が相続財産の分割にどのような違いをもたらすのかを解説します。


ケース設定

項目価額
自宅不動産(評価額)1,000万円
預貯金1,000万円
相続財産総額2,000万円
相続人配偶者、子A、子B
法定相続分配偶者 1/2(1,000万円)、子A 1/4(500万円)、子B 1/4(500万円)

1. 従来の分割例(居住権なしの場合)

配偶者が自宅に住み続けるために、自宅不動産を単独で取得する場合の分割例です。

相続人取得財産取得価額
配偶者自宅不動産1,000万円
子A預貯金の一部500万円
子B預貯金の一部500万円

問題点

配偶者は住まい(自宅)を確保できますが、生活費となる預貯金は0円になってしまいます。高齢になると自宅を売却して現金化するのは難しく、その後の生活費が不足する可能性があります。

2. 配偶者居住権を活用した分割例(理想的なケース)

自宅不動産の価値を「居住権」と「負担付所有権」に分けて評価し、配偶者の生活と他の相続人の権利を両立させます。

ここでは、配偶者の居住権の評価額を400万円と仮定して計算します。(※実際の評価額は、配偶者の平均余命や法定利率などにより計算されます。)

相続人取得財産取得価額
配偶者居住権(評価額 400万円) + 預貯金(600万円)1,000万円
子A負担付所有権(300万円) + 預貯金(200万円)500万円
子B負担付所有権(300万円) + 預貯金(200万円)500万円

配偶者居住権のメリット

  • 住まいの確保と生活費の確保を両立!
    • 配偶者は自宅に生涯住み続ける権利(居住権)を確保した上で、法定相続分から居住権の評価額を差し引いた残りの預貯金600万円を取得できます。
    • これにより、住居の心配がなくなり、かつ生活費となる現金も手元に残すことができます。
  • 子への配慮も可能
    • 子A・子Bも、自身の法定相続分通りの財産(自宅の負担付所有権と預貯金)を取得しており、公平な分割が実現しています。

※実際の居住権の評価額は、配偶者の年齢・平均余命・不動産の種類など複数の要素をもとに複雑な計算が必要です。税理士等の専門家の支援、または税務署への確認を行うことをおすすめします。

遺言の書き方

配偶者居住権を確実に設定するには、遺言書で「居住権を遺贈する」旨を明記することが重要です。
ポイントは「相続させる」ではなく「遺贈する」とすること。遺贈であれば、居住権を受け取らなくても他の財産の相続が可能で、柔軟な分割が可能になります。

但し、デメリットもあります。相続であれば、遺産分割協議を経ずに、配偶者単独で居住権の登記手続きを完了できますが、遺贈の場合、居住権の登記が必要です。さらに、この登記手続きは、不動産の所有者となる相続人(子など)と共同で行う必要があります。

制度の活用の注意点

配偶者居住権は非常に有効な制度ですが、注意点もあります。

  • 登記が必要:居住権は登記しなければ第三者に対抗できません。
  • 売却不可:居住権は譲渡・売却できないため、資産価値としての流動性は低いです。
  • 評価額の算定が複雑:居住権の評価は年齢・残存期間などにより変動し、専門的な計算が必要です。
  • 遺産分割協議での合意が必要:他の相続人との調整が不可欠です。

民法改正から数年が経過し、配偶者居住権も少しずつ浸透し始めています。
とはいえ、いざ遺言に記載しようとすると「どう書けばいいのか」「本当にこの方法でいいのか」と悩ましい場面も出てくるかもしれません。そんな時はお気軽にご相談ください(初回相談料は無料です)

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